- 安全衛生の担当になったけれど、労働安全衛生法が何を決めている法律なのかわからない
- うちの会社の人数だと、何を選任して、何を届け出ればいいのか知りたい
- 守らなかったら、どんな罰則があるのか気になる
- 労働安全衛生法の目的と、12章の全体像
- 従業員数別(1人〜、10人〜、50人〜、100人〜)に会社がやるべきこと
- 罰則のある義務と、2028年までの改正の予定
労働安全衛生法は、はじめて安全衛生の担当になった人が、最初に全体像をつかんでおきたい法律です。条文の数が多く、政令や規則にも細かい決まりが分かれているため、いきなり読むと迷子になります。この記事では、目的と全体の地図、そして「自分の職場は何をすればよいか」を、人数別に1枚で整理します。
労働安全衛生法(安衛法)は、職場で働く人の安全と健康を守るために、会社(事業者)が守るべき最低限の基準と管理の仕組みを定めた法律です。労働者を1人でも使っていれば対象になり、事業場(工場や支店など、場所ごとの職場の単位)の人数が10人以上、50人以上と増えるほど、担当者の選任や委員会の設置といった義務が増えます。
- 労働安全衛生法 第1条(目的)・第3条(事業者等の責務)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。
労働安全衛生法とは:労働災害を防ぐための「最低基準」を決めた法律
労働安全衛生法は、労働災害(仕事が原因のけがや病気、死亡)を防ぎ、職場の安全と健康を守るための法律です。1972年(昭和47年)に作られました。略して「安衛法(あんえいほう)」と呼ばれます。
第1条には、この法律の目的が書かれています。要点を3つに分けると、次のとおりです。
| 第1条の柱 | 意味 | 具体的には |
|---|---|---|
| 危害防止基準の確立 | 危険を防ぐための基準を決める | 機械の安全装置、墜落を防ぐ囲い、有害な物質の扱い方など |
| 責任体制の明確化 | 誰が安全衛生を管理するかを決める | 衛生管理者・安全管理者・産業医などの選任 |
| 自主的活動の促進 | 会社が自分から安全に取り組むよう促す | 委員会での話し合い、リスクアセスメント、安全衛生教育 |
そのうえで第1条は、職場の安全と健康を確保することに加えて、快適な職場環境をつくることも目的に掲げています。第3条では、会社は「この法律で定める最低基準を守るだけでなく」、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、働く人の安全と健康を確保するよう求められています。
労働基準法との関係
労働安全衛生法は、労働基準法と「対」になる法律です。労働基準法 第42条には「労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法の定めるところによる」と書かれています。つまり、賃金や労働時間などの労働条件は労働基準法、職場の安全と健康は労働安全衛生法が受け持っています。
法律・政令・規則の3層になっている
労働安全衛生法そのものには「政令で定める規模の事業場ごとに」のように、大きな決まりだけが書かれています。具体的な人数や手順は、下の層で決まっています。
| 層 | 名前(略称) | 決めている内容の例 |
|---|---|---|
| 法律 | 労働安全衛生法(安衛法) | 衛生管理者を選任しなければならない、という義務そのもの |
| 政令 | 労働安全衛生法施行令(安衛令) | 衛生管理者が必要なのは「常時50人以上」の事業場、という規模 |
| 省令 | 労働安全衛生規則(安衛則)と、有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則・クレーン等安全規則などの特別規則 | 選任は14日以内、人数に応じて何人選ぶか、という手順と細部 |
交通ルールに似ています。「スピードを出しすぎてはいけない」という大きな決まりが法律で、「この道は時速40km」という具体的な数字が標識です。安衛法が大きな決まり、安衛令と安衛則が標識の数字にあたります。
- 労働安全衛生法 第1条(目的)・第3条(事業者等の責務)
- 労働基準法 第42条(安全及び衛生)
- e-Gov法令検索「労働基準法」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

対象になる職場:労働者を1人でも使えば対象、人数で義務が増える
労働安全衛生法は、労働者を1人でも使う事業者(会社や個人事業主)すべてに適用されます。業種や会社の規模は問いません。ここでいう労働者からは、同居の親族だけで営む事業で働く人と、家事使用人が除かれます(第2条)。そのうえで、事業場の人数と業種によって、必要な選任や委員会が増えていきます。
従業員数別の早見表
| 事業場の人数(常時) | 必要になること | 根拠 |
|---|---|---|
| 1人以上(すべて) | 危険を防ぐ措置、雇い入れたときの安全衛生教育、危険な業務の特別教育・資格の確認、雇入れ時と年1回の健康診断、労災が起きたときの労働者死傷病報告 | 法第20条、第59条、第61条、第66条、規則第97条 |
| 10人以上50人未満 | 安全衛生推進者(業種によっては衛生推進者)の選任 | 法第12条の2、規則第12条の2 |
| 50人以上 | 衛生管理者・産業医の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェック、定期健康診断の結果報告。製造業・建設業など一部の業種では安全管理者の選任と安全委員会の設置も | 令第3条・第4条・第5条・第8条・第9条、規則第52条 |
| 100人以上・300人以上・1,000人以上 | 総括安全衛生管理者の選任(林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業は100人以上、製造業などは300人以上、その他の業種は1,000人以上) | 令第2条 |
人数は、会社全体ではなく事業場ごとに数えます。また「常時使用する労働者」には、日雇いやパートタイマーなどの臨時的な人も、いつも働いているなら含めます。派遣労働者は、派遣先と派遣元の両方の事業場で数えます。正社員だけで数えて「50人未満」と判断するのが、よくある見落としです。
判定フロー:自分の事業場で必要な体制は?
いいえ → 選任の義務はなし。ただし教育・健康診断・危険防止の措置・死傷病報告は必要
いいえ → 安全衛生推進者(または衛生推進者)を選任する
いいえ → 衛生管理者・産業医の選任と衛生委員会の設置が必要
- 労働安全衛生法施行令 第2条〜第5条・第8条・第9条(選任と委員会が必要な業種・規模)
- 労働安全衛生規則 第12条の2(安全衛生推進者等:常時10人以上50人未満)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」
- 神奈川労働局の資料(常時使用する労働者の数え方。昭和47年9月18日基発第602号)
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

労働安全衛生法の全体像:12の章と会社の主な義務
労働安全衛生法は、第1章から第12章(ほかに第7章の2)でできています。担当者が特に押さえておきたいのは、第3章(管理体制)・第4章(危険防止の措置)・第6章(教育と就業制限)・第7章(健康管理)の4つです。
| 章 | 中身 | 会社が主にすること |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 目的・用語の定義・責務 | 最低基準を守り、快適な職場をつくる |
| 第2章 労働災害防止計画 | 国(厚生労働大臣)が作る労働災害防止計画 | 自社の安全衛生計画の参考にする |
| 第3章 安全衛生管理体制 | 管理者・産業医・委員会 | 人数と業種に応じて選任・設置し、監督署に報告する |
| 第4章 危険・健康障害を防止する措置 | 機械・爆発・電気・墜落・有害物などの危険の防止 | 設備と作業方法で危険を取り除く |
| 第5章 機械等・危険物・有害物の規制 | 特定の機械の検査、化学物質のラベル・SDS | 定期自主検査、化学物質のリスクアセスメント |
| 第6章 就業に当たっての措置 | 安全衛生教育・就業制限 | 雇入れ時教育、特別教育、資格のない人に危険な業務をさせない |
| 第7章 健康の保持増進 | 作業環境測定・健康診断・面接指導・ストレスチェック | 健康診断を実施し、結果に応じて措置する |
| 第7章の2 快適な職場環境 | 快適な職場づくり | 指針を参考に職場環境を改善する |
| 第8章 免許等 | 免許・技能講習 | 必要な資格を持つ人を確保する |
| 第9章 改善措置等 | 改善計画、安全衛生診断 | 指示を受けたら改善計画を作る |
| 第10章 監督等 | 計画の届出、労働基準監督官の立入り、報告 | 監督署の調査に対応し、求められた報告をする |
| 第11章 雑則 | 法令の周知、書類の保存など | 法令の要旨を職場に周知し、記録を保存する |
| 第12章 罰則 | 違反したときの刑罰 | (このあとの「罰則」の節で解説) |
義務の強さで見る、会社の主な義務
同じ「しなければならない」でも、罰則があるもの、罰則がないもの、「努めなければならない(努力義務)」があります。
| 義務の内容 | 強さ | 条文 |
|---|---|---|
| 機械・電気・墜落などの危険を防ぐ措置 | 義務(罰則あり) | 第20条〜第25条、第119条 |
| 衛生管理者・産業医などの選任、衛生委員会の設置 | 義務(罰則あり) | 第10条〜第13条・第17条・第18条、第120条 |
| 雇入れ時の教育、健康診断 | 義務(罰則あり) | 第59条第1項・第66条、第120条 |
| 特別教育、資格のない人に危険な業務をさせない | 義務(罰則あり) | 第59条第3項・第61条第1項、第119条 |
| 安全衛生推進者の選任(10〜49人) | 義務(罰則なし) | 第12条の2(罰則の条文に挙げられていない) |
| ストレスチェック(50人未満の事業場) | 努力義務 | 第66条の10、附則第4条(2028年4月1日から義務) |
| 高年齢者の労働災害を防ぐ措置 | 努力義務 | 第62条の2 |
| 働く人が安全のルールを守り、会社の措置に協力する | 努力義務 | 第4条(労働者側の努力義務) |
「罰則なし」は「やらなくてよい」という意味ではありません。法律上の義務であることは変わらず、労働基準監督署の調査では指導の対象になります。つまり、義務と書かれているものは全部やる、というのが基本です。
- 労働安全衛生法 目次(第1章〜第12章)、第4条・第62条の2・第66条の10・附則第4条・第119条・第120条
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

担当になったら最初にやる5つのこと
労働安全衛生法の義務は多いですが、最初にやることは決まっています。人数と業種を確かめ、足りない体制を整え、毎年やることを予定に入れる、という順番です。
事業場ごとに人数を数える。工場・支店・営業所など場所ごとに、パート・アルバイト・派遣を含めて、常時働いている人数を数えます。
業種を確かめる。製造業・建設業・運送業などか、それ以外かで、安全管理者や総括安全衛生管理者が必要になる人数が変わります。
足りない選任と委員会を整える。衛生管理者・安全管理者・産業医・総括安全衛生管理者は、選任が必要になった日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署に報告します(規則第2条・第4条・第7条・第13条)。
全員にやることを確認する。雇い入れたときと作業内容を変えたときの教育、雇入れ時と1年以内ごとに1回の健康診断、危険な業務の特別教育や資格の確認です。
記録と報告の流れを決める。50人以上の事業場は定期健康診断の結果を監督署に報告します(規則第52条)。労災で4日以上休んだときは遅滞なく、4日未満のときは3か月ごとにまとめて、労働者死傷病報告を出します(規則第97条)。
自社の実情に合わせて書き換えて使ってください。

労働基準法・安全配慮義務との違い
労働安全衛生法とよく並べて出てくるのが、労働基準法と「安全配慮義務」です。3つは役割が違います。
労働安全衛生法
- 職場の安全と健康のための最低基準
- 選任・教育・健診など、やることが具体的に決まっている
- 違反すると罰則がある(刑事罰)
労働基準法
- 賃金・労働時間・休日などの労働条件
- 安全衛生は第42条で労働安全衛生法に任せている
- 違反すると罰則がある
安全配慮義務は「最低基準の外側」もカバーする
安全配慮義務は、労働契約法 第5条に書かれている、会社が働く人の生命や身体の安全に配慮する義務です。労働安全衛生法の基準を守っていても、それだけで足りるとは限りません。予見できた危険に手を打たずに災害が起きると、民事上の損害賠償を求められることがあります。
つまり、労働安全衛生法は「守らないと罰せられる最低ライン」、安全配慮義務は「最低ラインを守ったうえで、職場の実情に合わせて安全に配慮する責任」です。第3条が「最低基準を守るだけでなく」と書いているのも、同じ考え方です。
- 労働基準法 第42条、労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)、労働安全衛生法 第3条
- e-Gov法令検索「労働契約法」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

よくある間違いと、違反したときの罰則
労働安全衛生法の違反は、多くが「知らなかった」「数え方を間違えた」ことから起きます。まず、よくある間違いを確認しておきましょう。
| よくある間違い | 正しくは |
|---|---|
| 会社全体の人数で判断している | 工場・支店など事業場ごとに数える |
| 正社員だけで数えている | いつも働いているパート・アルバイト・派遣も含める |
| 10人未満だから安衛法は関係ない | 選任の義務がないだけ。教育・健康診断・危険防止の措置・死傷病報告は必要 |
| 50人を超えてから、ゆっくり衛生管理者を探す | 選任は14日以内。人が増える前に資格者を育てておく |
| 衛生委員会を作ったが開いていない | 委員会は毎月1回以上開き、議事の概要を周知し、記録を3年間保存する(規則第23条) |
罰則は違反の内容で3段階
| 条文 | 罰則 | 主な違反の例 |
|---|---|---|
| 第117条 | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 | ボイラー・クレーンなど特定機械等を許可なく製造する(第37条第1項)、検定が必要な機械を検定を受けずに製造・輸入する(第44条第1項など) |
| 第119条 | 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 危険を防ぐ措置をしない(第20条〜第25条)、作業主任者を選任しない(第14条)、特別教育をしない(第59条第3項)、無資格者に危険な業務をさせる(第61条第1項) |
| 第120条 | 50万円以下の罰金 | 衛生管理者・産業医などを選任しない(第10条〜第13条)、衛生委員会を設けない(第18条)、雇入れ時教育をしない(第59条第1項)、健康診断をしない(第66条) |
このほか、黄りんマッチやベンジジンなど、製造や使用が禁止されている物を製造・使用するといった重い違反(第55条)には、第116条で3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています。また第122条(両罰規定)により、違反した担当者本人だけでなく、会社にも罰金が科されます。
2025年6月の刑法改正で、「懲役」は「拘禁刑」に変わりました。古い資料には「6月以下の懲役」と書かれていますが、今の条文は「拘禁刑」です。違反に気づいたら、まず不足しているものを整え、判断に迷うときは所轄の労働基準監督署に相談してください。
- 労働安全衛生法 第116条・第117条・第119条・第120条・第122条(罰則・両罰規定)
- 労働安全衛生規則 第23条(委員会の会議)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

2028年までの改正の予定
労働安全衛生法は、2025年5月14日に大きな改正法(令和7年法律第33号)が公布され、2026年から2028年にかけて段階的に施行されています。担当者に関係の深いものを、施行日の順に並べます。
| 施行日 | 内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 2026年4月1日 | 高年齢者の労働災害を防ぐ措置が事業者の努力義務に。注文者が講ずべき措置(個人事業者などとの混在作業)の強化など | 施行済み |
| 2026年10月1日 | 個人ばく露測定を、作業環境測定の一つとして位置づける | 施行済み |
| 2027年1月1日 | 個人事業者などの業務上の災害を報告する制度(一部) | これから |
| 2027年4月1日 | 個人事業者など自身が講ずべき措置、業種を問わない混在作業での措置(一部) | これから |
| 2028年4月1日 | ストレスチェックを、50人未満の事業場でも義務に | これから |
50人未満の事業場は、ストレスチェックが2028年4月1日から義務になります。今は努力義務ですが、実施する機関の選び方や、結果を会社が見られない仕組みづくりには時間がかかるため、早めに準備を始めるのがおすすめです。
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

よくある質問
まとめ:まず人数を数えて、足りない体制から整える
- 労働安全衛生法は、職場の安全と健康を守るための最低基準と管理の仕組みを定めた法律です。
- 労働者を1人でも使えば対象です。10人以上で安全衛生推進者、50人以上で衛生管理者・産業医・衛生委員会が必要になります。
- 人数は事業場ごとに、パート・派遣を含めて数えます。選任は14日以内です。
- 選任や健康診断をしないと罰則があり、会社にも罰金が科されます。
- 2028年4月1日から、50人未満の事業場でもストレスチェックが義務になります。
つまり、担当になったら最初にやることは「事業場ごとの人数と業種を確かめること」です。この記事の確認リストを印刷して、足りないものから順に整えていきましょう。
メーカーの製造現場で設計と品質保証に携わってきた経験をもとに、職場の安全と健康のルールを図解しています。法令は厚生労働省の資料と条文で確認し、根拠を示して説明することを大切にしています。
次に読むべき記事
全体像がつかめたら、次は自分の事業場に必要な選任と手続きを一つずつ確かめていきましょう。選任・委員会・届出の記事は「法令と管理体制」のカテゴリにまとめています。

