安全配慮義務とは、会社が、働く人が生命や体の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をする義務です(労働契約法第5条)。心の健康も含まれ、何をすればよいかは職種や仕事の中身、場所などの具体的な状況で決まります。違反して事故や病気が起きると、会社は損害賠償の責任を問われることがあります。
知りたいことから:違反したときの責任と判例/労働安全衛生法との違い/4つの配慮
かんたんに言うと、人を雇ったら、「けがや病気をさせないように気を配る」ことが、契約の一部として当然についてくるということです。社員が1人でも、パートやアルバイトでも同じです。
- 労働契約法 第5条
- 労働契約法の施行について(基発0810第2号)第2の5
- e-Gov法令検索「労働契約法」
- 厚生労働省「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日 基発0810第2号)
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。
労働安全衛生法との違い
労働安全衛生法などの決まりは、当然に守ったうえで、さらに状況に応じた配慮が求められます(基発0810第2号)。
| 労働安全衛生法 | 安全配慮義務(労働契約法第5条) | |
|---|---|---|
| 決めていること | 手すり・健康診断・教育など、具体的な措置 | 状況に応じた「必要な配慮」(中身は決まっていない) |
| 守らないと | 罰則(罰金など)や監督署の是正勧告 | 罰則はない。事故が起きると損害賠償を求められる |
| 誰との関係 | 国と会社(公法) | 会社と働く人(契約) |
「法律の決まりは全部守っている」だけでは、安全配慮義務を果たしたとは限りません。たとえば、法律に細かい決まりのない危険(夜間の一人勤務、取引先での作業など)でも、事故が予想できたのに対策しなければ、責任を問われることがあります。

安全配慮義務の中身:4つの配慮
「必要な配慮」は一律には決まっていませんが、判例や実務では、大きく次の4つに分けて考えるとわかりやすくなります。
| 配慮 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 設備・環境 | 危険のない場所・機械・道具を用意する | 機械の安全装置、手すり、照明、防犯の設備 |
| 作業の管理 | 安全なやり方で仕事をさせる | 作業手順の決定、保護具の支給と着用の確認、教育 |
| 健康の管理 | 体の病気を防ぎ、悪くならないようにする | 健康診断と結果に応じた配置、長時間労働の削減 |
| 心の健康 | 仕事のストレスで心を病まないようにする | 業務量の調整、ハラスメント対策、相談窓口 |
当てはめ例
どれも架空の例で、必要な配慮は実際の状況で変わります。
| 場面(架空) | 考えられる配慮 |
|---|---|
| 夜間に1人で店番をさせる | 防犯カメラ・非常ボタン、2人体制、緊急時の対応の教育 |
| 健康診断で高血圧の再検査になった社員 | 受診をすすめる、医師の意見を聴いて残業や夜勤を減らす |
| 残業が月80時間を超える状態が続いている | 業務量の見直し、医師の面接指導、休みをとらせる |
- 労働契約法 第5条
- 労働契約法の施行について(基発0810第2号)第2の5(2)ウ・エ
- e-Gov法令検索「労働契約法」
- 厚生労働省「労働契約法の施行について」(平成24年8月10日 基発0810第2号)
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

違反したときの責任と、基本の判例
安全配慮義務に違反して、働く人がけがをしたり、病気になったり、亡くなったりすると、会社は損害賠償を求められることがあります。労災保険の給付があっても、慰謝料は労災保険からは出ないため、その分などを会社に請求されることがあります。
陸上自衛隊事件と川義事件は、厚生労働省が労働契約法第5条の参考となる裁判例として挙げています。電通事件は、民法第715条(使用者責任)にもとづく判断です。
| 判例 | どんな事件か | わかること |
|---|---|---|
| 陸上自衛隊事件(最高裁昭和50年2月25日判決) | 車両整備中に、後退してきたトラックにひかれて亡くなった | 雇う側は、働く人の生命と健康を危険から守るよう配慮する義務を負う(安全配慮義務を初めて認めた) |
| 川義事件(最高裁昭和59年4月10日判決) | 宿直勤務中の社員が、侵入した盗賊に殺害された | 防犯の設備、人を増やす、安全教育など、状況に応じた配慮が必要。会社の損害賠償責任を認めた |
| 電通事件(最高裁平成12年3月24日判決) | 長時間の残業が続いた社員が、うつ病になり自殺した | 長時間労働による心の病気でも、会社の損害賠償責任が認められる |
判例に共通するのは、「事故や病気が予想できたのに、防ぐ手を打たなかった」ことが責任の分かれ目になるという点です。危険を見つけて、記録に残る形で対策しておくことが、働く人を守り、会社を守ることにもなります。
事故が起きたあとの報告・補償・再発防止の手順がわかる
- 陸上自衛隊事件・川義事件(厚生労働省「参考となる主な裁判例」)
- 最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決(平成10(オ)217)
- 厚生労働省「参考となる主な裁判例」(労働契約法)
- 裁判所「裁判例結果詳細 平成10(オ)217」
情報の確認時点:2026年10月。

会社がやっておきたいこと
- □ 労働安全衛生法などの決まり(健康診断・教育・選任など)を守っている
- □ 職場の危険を洗い出し、対策を決めている(リスクアセスメント)
- □ ヒヤリとした出来事を集めて、対策につなげている
- □ 長時間労働の人を把握し、業務量を調整している
- □ 健康診断の結果に応じて、医師の意見を聴いて配置を見直している
- □ ハラスメントやメンタルの相談窓口を設けている
- □ 対策した内容を記録に残している
まずは、職場の危険を洗い出して対策の優先順位をつけるリスクアセスメントと、心の不調を早めに見つけるストレスチェックから始めると、配慮の抜けを減らせます。
よくある質問
まとめ:決まりを守ったうえで、予想できる危険に手を打つ
- 安全配慮義務は、働く人の生命・体・心の健康を守るよう配慮する、会社の義務です。
- 中身は一律ではなく、職種・仕事の中身・場所などの状況に応じて決まります。
- 罰則はありませんが、違反して事故や病気が起きると損害賠償を求められます。
- 判例では、予想できた危険に手を打ったかどうかが分かれ目になっています。
つまり、法律の決まりを守ったうえで、職場の危険と働きすぎを早めに見つけ、対策を記録に残しておくことが大切です。
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、職場の安全と健康のルールを図解しています。法令は厚生労働省の資料と条文で確認し、根拠を示して説明することを大切にしています。


