- 化学物質の自律的管理と言われても、何が変わったのかよくわからない
- うちの会社は塗料や洗浄剤を使うだけだが、関係あるのか知りたい
- 結局、何をすればいいのかを一覧で知りたい
- 自律的管理とは何か、これまでとの違い
- 会社がやる5つのこと
- 対象物質が増えていく予定と、準備のチェックリスト
化学物質の自律的管理とは、国が物質ごとに細かい措置を決めるやり方から、会社が自分でリスクアセスメントを行い、対策を選んで実施するやり方への切りかえです。2022年(令和4年)の法令改正で始まり、ラベル・SDS・リスクアセスメントの対象物質が順に約2,900物質まで増え、化学物質管理者の選任や記録の保存が義務になりました。
「自律的」は「自分で決めて、自分で守る」という意味です。かんたんに言うと、国が「この物質はこの設備で」と決めていたのを、「危なさを調べて、自分の職場に合う方法を選んでください。ただし結果には責任を持ってください」に変えたものです。
- 労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第51号)
- 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号)
- 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
- 奈良労働局(厚生労働省リーフレット)「労働者が安全に働くために 職場における新たな化学物質規制が導入されます」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。
これまでとこれからの違い
これまで
- 有機溶剤・特定化学物質など、決まった物質だけに細かい決まり
- 対策の方法は国が決める(設備・測定・健診など)
- ラベル・SDS・リスクアセスメントの義務は674物質
これから(自律的管理)
- 危険・有害性がわかった物質は順に対象に(約2,900物質まで)
- 対策の方法は会社が選ぶ(換気・代替・作業方法・保護具など)
- 選んだ結果を記録し、働く人の意見も聴く
有機溶剤中毒予防規則などの、これまでの細かい決まりがなくなるわけではありません。その外側にある数多くの物質を、会社の自律的な管理で守る、という二段構えになります。
料理のレシピにたとえると、これまでは「この材料はこの手順で」と国のレシピが決まっていました。これからは、材料の性質を自分で調べて、安全な手順を自分で組み立てるやり方が中心になります。
- 厚生労働省リーフレット「職場における新たな化学物質規制が導入されます」
- 奈良労働局(厚生労働省リーフレット)「労働者が安全に働くために 職場における新たな化学物質規制が導入されます」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

会社がやる5つのこと
この表の見方:上から順に進めると、自律的管理の流れになります。
| やること | 中身 | 強さ |
|---|---|---|
| 1. 情報を集めて伝える | ラベル・SDSで危険性を確かめる。別の容器に移して保管するときも中身の情報を伝える | 義務 |
| 2. リスクアセスメント | 対象物を新しく使うとき、作業の方法を変えるときに危なさを調べる | 義務 |
| 3. ばく露を減らす | 吸ったり触れたりする量を最小限にする。濃度基準値がある物質は基準値以下にする | 義務 |
| 4. 体制をつくる | 化学物質管理者を選任する。保護具を使わせるなら保護具着用管理責任者も選任する | 義務 |
| 5. 記録して聴く | 結果と対策を記録して保存し、働く人に知らせ、意見を聴く機会を設ける | 義務 |
自律的管理の中心になる担当者の選び方と講習がわかる
ほかにも、雇い入れたときの化学物質の安全衛生教育が全業種で必要になったこと、皮膚から吸収されたり皮膚を傷めたりする物質には保護めがね・手袋などを使わせることが求められています。
- 労働安全衛生規則 第12条の5(化学物質管理者)・第12条の6(保護具着用管理責任者)・第34条の2の7・第34条の2の8(リスクアセスメントの時期と記録)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
- 奈良労働局(厚生労働省リーフレット)「労働者が安全に働くために 職場における新たな化学物質規制が導入されます」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

対象物質は段階的に増えている
この表の見方:厚生労働省の資料による追加の順番です。物質の数は資料によって数え方が違うため、ここでは区分だけを示しました。2027年4月以降も追加が続きます。
| 施行 | 追加される物質 |
|---|---|
| 2024年4月 | 発がん性・急性毒性などが特に強い物質(区分1) |
| 2025年4月 | そのほかの区分1の物質 |
| 2026年4月 | 区分2以下や、燃えやすさなどの危険性がある物質 |
この結果、国がGHS分類(化学品の危険性・有害性を国際的なルールで分けたもの)で危ないとした物質は、すべてラベル・SDS・リスクアセスメントの義務の対象になっていきます。
「昔から使っている塗料だから大丈夫」と思っていても、中の成分が新たに対象に加わっていることがあります。SDSの改訂版が届いたら、対象物が含まれていないか確かめましょう。
- 厚生労働省リーフレット(対象物質の追加の予定)
- 奈良労働局(厚生労働省リーフレット)「労働者が安全に働くために 職場における新たな化学物質規制が導入されます」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。

当てはめ例と、準備のチェックリスト
たとえば、社員20人の金属部品工場で、脱脂用の洗浄剤と塗料を使っている場合を考えます(架空の例)。
SDSを集める。洗浄剤と塗料のSDSを仕入れ先から取り寄せ、対象物が入っているかを確かめます。
化学物質管理者を決める。人数に関係なく必要です。工場長や品質担当など、化学物質に詳しい人を選びます。
リスクアセスメントをする。どの作業で、どれくらい吸ったり触れたりするかを調べます。厚生労働省の簡易ツール(CREATE-SIMPLE)も使えます。
対策を選ぶ。換気を強める、洗浄剤を危険性の低いものに替える、手袋とマスクを使うなどから選びます。
記録して聴く。結果と対策を記録して保存し、作業する人に知らせて意見を聴きます。
- □ 使っている化学物質の製品ごとにSDSがそろっている
- □ 化学物質管理者を選任し、氏名を掲示した
- □ リスクアセスメントを行い、結果と対策を記録した
- □ 濃度基準値がある物質は、基準値以下か確かめた
- □ 別容器に移した化学物質にも、名前と危険性の表示をした
- □ 雇い入れた人に化学物質の安全衛生教育をした
よくある質問
まとめ:調べて、選んで、記録する
- 化学物質の自律的管理は、会社が自分で危なさを調べ、対策を選ぶやり方への切りかえです。
- 対象物質は約2,900物質まで段階的に増えています。
- 情報の伝達、リスクアセスメント、ばく露の低減、体制づくり、記録と意見聴取の5つが会社の仕事です。
- これまでの有機則・特化則などの決まりは残ります。
つまり、まず手元のSDSをそろえ、化学物質管理者を決めて、リスクアセスメントから始めれば、自律的管理の形になります。
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、職場の安全と健康のルールを図解しています。法令は厚生労働省の資料と条文で確認し、根拠を示して説明することを大切にしています。


