ヒヤリハット報告書は、「いつ・どこで・どうしていた時に・何が起きかけたか」の事実と、作業環境・設備・作業方法のどこに問題があったか、どうすれば防げるかを短く書く書類です。反省文はいりません。法律で決まった様式はないので、労働局が示している例のように、記入できる範囲で書ける1枚の様式にします。
知りたいことから:そのまま使える様式/記入例/欄ごとの書き方のコツ
たとえば「梱包機で詰まった箱を直そうとして、カッターに指が近づいた」という出来事なら、上手な文章はいりません。場所・作業・起きかけたことと、「停止ボタンが遠い」といった問題点が書いてあれば、安全担当が対策を決められます。
ヒヤリハット報告書の項目|何を書く欄があるか
ヒヤリハット報告書の項目は、出来事の事実・問題点・対策の3つのまとまりでできています。新潟労働局が示している様式の例では、次の欄があります。
左から、まとまり・様式の欄・その欄に書くことです。
| まとまり | 欄 | 書くこと |
|---|---|---|
| 事実 | いつ・どこで・どうしていた時 | 日時、場所、していた作業 |
| 事実 | あらまし | 何が起きかけたか(ヒヤリとした・危険を感じた内容) |
| 問題点 | 作業環境・設備機器・作業方法・自分自身 | 不安全な状態や行動。わからなければ空欄でよい |
| 問題点 | 心身の状態(選ぶだけ) | 気がつかなかった、あわてていた、など当てはまるものに○ |
| 対策 | 今後の対策 | 「こうしてほしい」「こうしたほうがよい」 |
| 対策 | 安全担当の記入欄 | 報告者は書かない。担当者が対策を書く |
報告の対象には、実際に起きたヒヤリハットのほかに、まだ起きていないが危ないと感じた「想定ヒヤリ」を含める方法もあります。報告書の上に「ヒヤリハット・想定ヒヤリ」のどちらかに○をつける欄を置くと、1枚の様式で両方を集められます。
法律で決まった様式はありません。自社の様式を作るときは、この6つの欄を基本にして、書く人の手間が1枚・数分で済む量に絞ります。

記入例|架空の職場で全部の欄を埋めると
記入例は、どちらも架空の職場・架空の出来事です。報告者の欄と、安全担当の欄を分けて書いています。
記入例1:食品工場の包装ライン(はさまれかけた)
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 報告の種別 | ヒヤリハット |
| 所属・氏名 | 製造2課 山田太郎 |
| いつ | 〇月〇日(火)10時20分ごろ |
| どこで/どうしていた時 | 包装ライン3号機/流れてきた袋の詰まりを直していた |
| あらまし | 袋が搬送ベルトの出口で詰まったので、機械を動かしたまま手で引き抜こうとした。ベルトが急に動き、手袋の指先がローラーに引き込まれかけた。すぐに手を引いたのでけがはなかった |
| 問題点:設備機器 | 停止ボタンが作業位置から3mほど離れていて、すぐ押せない |
| 問題点:作業方法 | 詰まりを直すときに機械を止める手順が、現場で守られていない |
| 心身の状態 | 大丈夫だと思った/あわてていた |
| 今後の対策 | 詰まりが起きやすい出口の近くに停止ボタンを付けてほしい |
| 安全担当の記入欄 | ①出口に非常停止ボタンを増設する ②詰まり取りは「停止→確認→手を入れる」の手順を朝礼で再確認 ③出口のカバーを開けると止まるしくみ(インターロック)を安全衛生委員会で検討する |
カバーを開けたら機械が止まる、インターロックのしくみがわかる
記入例2:倉庫の通路(フォークリフトと出会い頭)
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 報告の種別 | ヒヤリハット |
| 所属・氏名 | 物流課 佐藤花子 |
| いつ | 〇月〇日(木)15時ごろ |
| どこで/どうしていた時 | 第2倉庫のB列の角/台車で部品を運んでいた |
| あらまし | 棚の角を曲がったところで、右からバックしてきたフォークリフトと1mほどの距離で出会い、両方が急停止した。接触はなかった |
| 問題点:作業環境 | 棚が高く、角の先が見えない。歩行者と車両の通路が分かれていない |
| 問題点:作業方法 | フォークリフトのバック時に誘導者がいない |
| 心身の状態 | よく見えなかった |
| 今後の対策 | 角にカーブミラーを付けてほしい。歩く通路を床の線で分けたほうがよい |
| 安全担当の記入欄 | ①B列の角にカーブミラーを設置 ②歩行者通路を床に表示 ③同じ倉庫の他の角も点検し、全員に周知 |
どちらの例も、あらましに「自分が悪かった」とは書いていません。事実と、設備や環境のどこが危なかったかが書いてあるので、安全担当が対策を決められます。

欄ごとの書き方のコツ
左が欄、右がその欄を書くときのコツです。
| 欄 | 書き方のコツ |
|---|---|
| いつ・どこで | 時刻は「ごろ」でよい。場所は設備名や棚の番号まで書くと、あとで現場を確かめやすい |
| どうしていた時 | していた作業を1つだけ書く(「詰まりを直していた」「台車で運んでいた」) |
| あらまし | 起きた順に2〜3文。数字(距離・高さ・速さ)があると危なさが伝わる |
| 問題点 | 人の行動だけでなく、設備・環境・手順のどこが危なかったかを書く。わからなければ空欄でよい |
| 今後の対策 | 「気をつける」ではなく、設備や手順をどう変えたいかを書く。思いつかなければ空欄でよい |
新潟労働局の資料では、報告書は「記入できる範囲でもよいので自由に作成」し、作成・提出は職長が代理してもかまわないとしています。書くのが苦手な人には、口で聞いて職長が書く方法もあります。
ここで間違えやすいのですが、作業手順書どおりに作業しなかったことが原因でも、それだけで終わらせないことが大切です。労働局の資料でも「手順書に無理があって守ることができないのかもしれない」「手順書の見直しの良い機会」と説明されています。
原因を「人のせい」で終わらせない掘り下げ方は、品質の不良を調べるときと同じです。同じ筆者が運営する電気と品質管理のブログ shirasusolo.net のなぜなぜ分析が「人のせい」で終わる理由と対策で詳しく解説しています。
よくある記入ミスと書き直し例
集まった報告書が対策につながらないときは、たいてい次のどれかです。Before を After のように書き直すと、安全担当が対策を決められる報告書になります。
左がよくあるミス、真ん中が書き直す前、右が書き直した後の例です。どれも架空です。
| よくあるミス | Before | After |
|---|---|---|
| 反省文になっている | 不注意でした。今後は気をつけます | 床が濡れていて、台車を押したまま足がすべった |
| 場所があいまい | 工場で | 第1工場 プレス2号機の前 |
| 何が起きかけたか書いていない | 危なかった | 上の棚から段ボール箱が落ち、足元から30cmの所に落ちた |
| 対策が「注意する」だけ | 周りをよく見る | 棚の上段は軽い物だけにし、落下防止のバーを付けてほしい |
書き直してもらうときは、報告した人を責めずに「教えてくれてありがとう。もう少し場所を詳しく教えて」と聞き返します。報告書を突き返すと、次から報告が出なくなります。

そのまま使える報告書の様式
労働局の様式の例を参考に、1枚で書ける量に絞ったひな形です。社内の書式に合わせて書き換えて使ってください。
自社の実情に合わせて書き換えて使ってください。「もし災害になっていたら」の欄は、労働局の様式の例にはない欄です。○をつけるだけなので書く手間はほとんど増えず、安全担当が対策の順番を決める手がかりになります(ハインリッヒの法則の、重い災害・軽傷・けがのない事故の段と同じ考え方です)。
- □ 1枚・数分で書ける量になっている
- □ 選ぶだけ(○をつけるだけ)の欄がある
- □ 「もし災害になっていたらどのくらいか」を○で選べ、対策の順番の手がかりにしている
- □ 問題点や対策は「わからなければ空欄でよい」と書いてある
- □ 職長が代わりに書いてもよいことになっている
- □ 安全担当の欄が分かれていて、報告者は書かなくてよい
- □ 報告した人を責めないことを、様式か掲示で約束している
提出したあとの流れ
報告書は、出して終わりではありません。安全担当がコメントを返し、関係者で対策を決め、全員に知らせるところまでつなげます。この流れと、報告が集まり続ける職場のコツは、ヒヤリハットとはの記事でまとめています。
ヒヤリハットを活かす4ステップと、活動を続けるコツがわかる
推奨 ヒヤリハットの報告書は、法律で提出が義務づけられた書類ではありません。ただし、集めたヒヤリハットは、職場の危険を見つけて対策するリスクアセスメント(労働安全衛生法第28条の2で事業者が行うよう努めるもの)の材料になります。
集めたヒヤリハットの危険に、優先順位をつけて対策する方法がわかる
記入例の題材に迷ったら、厚生労働省の職場のあんぜんサイトにあるイラスト付きのヒヤリ・ハット事例集も参考になります。
- 新潟労働局「ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ 報告制度の導入について(例)」
- 労働安全衛生法 第28条の2
- 職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例」
- 新潟労働局「ヒヤリハット事例・想定ヒヤリ 報告制度の導入について(例)」
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
- 職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例」
法令の確認時点:2026年10月。改正されることがあるため、最終的な判断は所轄の労働基準監督署に確認してください。
よくある質問
まとめ:事実と問題点を短く、反省文はいらない
- ヒヤリハット報告書は、いつ・どこで・どうしていた時・あらまし・問題点・対策を書く書類です。
- 問題点は、人の行動だけでなく作業環境・設備・作業方法のどこが危なかったかを書きます。
- 法律で決まった様式はありません。1枚・数分で書ける様式にします。
- わからない欄は空欄でよく、職長が代わりに書いてもかまいません。
- 報告書は、安全担当のコメント→対策→全員への周知までつなげて活かします。
つまり、上手な文章より「次の人が同じ危険にあわないための事実」が書いてあることが大切です。報告してくれた人には、まず感謝を伝えましょう。
メーカーで回路設計と生産技術(品質改善)に携わってきた経験をもとに、職場の安全と健康のルールを図解しています。法令は厚生労働省の資料と条文で確認し、根拠を示して説明することを大切にしています。

